第一.五章「現状にある事実」
「皆さん、御覧になれますでしょうか?
あちらに見えますのが、男性の遺体が発見されました元、安国(やすくに)病院の建物です」
明らかに不自然なカメラ目線で手をかざすリポーターの後方、遙か遠くにベージュ色の建物が見え隠れする。
「安国病院は約十年前、医療事故を起こしたことで話題となりましたが、その影響からか七年前に閉鎖。
しかし、後地の利用が決まらず、今でも無人の建物が残っていたのです。
そして今回、その曰く付きの建物で事件は起こりました」
妙に演技がかった口調がテレビのスピーカーから流れ出してくる。
「では、もう少し近くに行ってみましょう」
その若い女のリポーターとカメラマンは早足で問題の建物に近づいていく。
その演出に何の意味があるのかは分からないが、打ち合わせ通りの中継放送がされているのだろう。
他局の取材陣が大勢たむろしたポイントに来ると、リポーターは振り返る。
「安国病院の建物まで約五十メートルといった所でしょうか? これ以上は警察によって立入が禁止されています。
丁度見えますでしょうか? あの青いシートの辺り、あの辺りで今回の事件の被害者。
深山浩さんは発見されました」
ADが用意していたのであろう。どこからともなく現場の見取り図のプレートが表れる。
「この辺りが今、我々のいる辺りです。
そしてここ、この辺りが先程カメラに写りました青いシートが張られている場所です。
そここで深山浩さんの遺体が発見されたのです」
画面は唐突に一人の男の顔写真に切り替わる。
そして当然の様に『深山浩さん(四十ニ)』というテロップがついている。
その画面をバックにリポーターは話し続ける。
「事件は四日前の二月三日。節分の夜に起こりました。
付近住民による銃声のような物音が聞こえたという通報により、
パトロール中の警官が辺りを捜索した所、人が血を流して倒れているのを発見。
駆けつけた時には既に亡くなっていたとの事です。
所持品から都内在住の深山浩さんとはん……え〜、今、どうやら、捜査本部による記者会見が行われるようです。
中継を回します」