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燦々(さんさん)とした太陽が首をもたげていた。
全てが干上がりそうな熱気に顔を背けたくなる。
だけれど、どちらを向いたところで灼熱の太陽は見逃してくれず。その熱光を容赦なく照りつける。
そこは左右に雑木林が連なる公園。
青々とした木々の木漏れ日が唯一の涼となるその場所は、熊蝉の大合唱により空間全てが揺り動かされて、
まるで周りからすっぽりと切り抜かれたように、独特の空気に満たされていた。
太陽の熱射に溶かされてしまったかのように、人の気配はほとんどなかった。
そんな中、日差しなど全く気にせず公園内を突き進む者がいる。
背の高い女性だった。手には供花と水の入った手桶。
そして冴えない表情が、これから墓前に向かうことを示していた。
「吉由(よしゆい)さん」
女性は遠巻きにかけられた声に振り返った。
そこには少しか細い男性が足を早めて、女性の元に急いでいた。
その男性も同じように墓参りの道具を手にしていた。
吉由と呼ばれた女性は、駆け寄ってくる男性をただじっと見つめて待っていた。
「や〜、走ると暑いですね」
男性は気さくに話しかけるが、吉由は少し機嫌悪そうに表情が固かった。
「……。その名字嫌いなの。私を呼ぶときはヒロポンでいいから」
「それはあまりにも馴れ馴れしいというものではないでしょうか……」
「私がいいって言ってんだから。あ〜早く結婚して名字変えて〜」
吉由はあっけらかんと言う。
「はは。じゃあヒロポンさん、お久しぶりです」
「稲生(いなお)くんもおひさ。年末のお葬式以来?」
そう言うと二人は足並みを揃えて再び歩き出す。
吉由と稲生の二人はFC6-2というフットサルクラブのメンバーだった。
しかし、とある事情から、こうして顔を合わせるのは半年ぶりのことだった。
「ええ、今日はお一人ですか?」
「そなんだ。声はかけたんだけど、みんな実家に帰ったりして、予定が合わなかったから」
「僕もなんです。お盆ですからね、皆さん予定があるみたいでしたね」
そういうと稲生ははにかんだ笑みを見せた。
夏の湿った暑い空気に溺れそうな気分になる。
それでも二人は文句も言わずに目的の場所を目指した。
この霊園の中でも奥手にあるお墓を前にして二人の足が止まった。
こぢんまりとした墓だった。しかし綺麗に掃除され、新しい花が供えられていた。
「私たち以外にも誰か来たようね」
墓掃除は無用と見たのか、吉由は早速掛け水をし、手を合わせた。
稲生もそれに習う。
水が滴り、黒く色を変えた墓石には『西家家之墓』と刻まれていた。
しばらくの間、墓前に手を合わせていた二人だったが、申し合わせたように同時に顔を上げた。
「あっ、ヒロポンさん。聞いてます?」
稲生は嬉しそうに切り出した。
「何?」
「この前、内島さんに会ったんですが。そろそろフットサルを再開しないか、って言ってましたよ」
「へ〜。初盆過ぎたから、喪が明けたって?」
「いつまでも僕たちがフットサルをやらないのは、西家さんたちも悲しむでしょうからね」
「フットサルが好きな人たちだったから、私たちがフットサルをやった方が供養になるってことね」
吉由の言葉に稲生も頷いた。
「はい……。ですから、そのうちFC6-2全員に招集がかかると思いますよ」
それは西家の葬儀以来の全員集合になるだろう。
しかし、その全員に死んだ人たちが含まれないことに、稲生は素直に悲しいと思った。
「そっか……。ところで稲生くん」
「なんですか?」
「FC6-2の誰かが書いた『六ノ二』っていう小説があるの、知ってる?」
了